熊撃退スプレー

熊が人を襲う事態を防ぐには?地域や行政が取り組むべき施策を紹介

熊は日本に住む野生動物の中でも特に人に危害を及ぼす危険性の高い存在です。農林作業やレジャーのために山に入り、熊に遭遇して襲われるだけではなく、近年では人里に下りた熊が人を襲うケースも増えてきました。※特に近年は北海道での熊被害が頻繁に報告されています。

しかし、熊は生態系を構成する動物であり、やみくもに駆除するのは望ましくありません。まずは「出会わないこと」を主眼に置き、熊と人とが共生できる環境作りを目指すことが重要です。

今回の記事では、熊が人を襲う事態を防ぐために個人や地域、行政が取り組むべき対策について解説します。熊の出没が多い地域に住む方や引っ越しを予定している方には特に有用な記事となっています。ぜひ、最後までお読みください。

見出し

熊はなぜ人を襲う?

なぜ熊は人を襲うのでしょうか?熊が人を襲う最も多い理由は「防衛行動」です。熊は基本的に憶病な動物であり、普段は人を避けるために隠れたり逃げたりします。

しかし、急に人に出会ってしまった場合、防衛行動として攻撃に出ることがあります。特に子熊を連れた母熊は、子熊を守るために攻撃をしてくるケースが多いです。

防衛行動による攻撃は30秒~1分程度の短時間で終わる傾向にあります。また、攻撃に見せかけて途中で止まり、地面などをたたく「威嚇突進行動」(ブラフチャージ)にとどまるケースも少なくありません。

熊の攻撃の多くは人を傷つけることが目的ではなく、人を排除し、自身の安全を守るために行っています。熊に襲われるのを防ぐためには、まず「熊に出会わないようにする」ことが重要です。

熊に襲われやすいケース

環境省が2023年におこなった調査によると、4~6月に起こった熊による人身事故の8割が森林で発生しています。秋(9~10月)になると人家周辺での事故の比率が高くなるものの、2~3割程度は森林での事故であり、人が熊のすみかである山林に入ることで熊に遭遇し、襲われるケースが多いことが分かります。

特に熊に襲われやすい場面は「農林作業」、「山での採集」、「レジャー」です。

その理由を以下にご紹介します。

農林作業

森林で伐採や植付、運搬といった作業を行っている時や、山間に近い場所で農作業をしている時に熊に襲われるケースは少なくありません。

森林は見通しが悪いうえ、作業に集中しています。そのため、熊が近くにいることに気づかず、襲われてしまうことが多いと考えられています。

冬眠期においては、熊いつからと冬眠するかを押さえておくと、冬眠穴近くでの作業リスクを減らせます。森林での事故の多くの被害者が林業作業者です。熊は冬眠中であっても物音がするとすぐに目覚めて活動ができます。そのため作業者が冬眠穴に近づき過ぎてしまい、興奮した熊に襲われるケースが多いです。

農作業中の事故については、農作物を食べるために田畑に下りてきた熊と遭遇するためだと考えられます。

山での採集

春の山菜やタケノコ採り、秋のキノコ狩りのために森林に入り、熊に襲われてしまうケースも多くあります。

採集中、人はしゃがんだ姿勢を取ります。熊はしゃがんで小さくなった人を狙う傾向にあるため、熊に襲われやすくなります。

特に危険なのはタケノコ採りとキノコ狩りです。タケノコは春に生え、冬眠が明け、交尾期を迎える熊にとって重要な栄養源になります。さらに、熊は季節ごとに多く採取可能な食物を集中的に食べる習性があります。

そのため、タケノコの時季には竹やぶに長くとどまり、遭遇する確率が高くなるのです。竹やぶは視認性が悪く、熊の接近に気づきにくい点も被害を拡大させる原因の一つです。

また、キノコはブナやナラなどの広葉樹林で多く発生します。ブナやナラは熊の主食である堅果類(ドングリやクリ、ブナの実)の供給源であるため、キノコの生える時期、生える場所は熊に遭遇する危険性が高まります。

レジャー

森林でハイキング、サイクリング、キャンプといったレジャーを楽しんでいる時に熊に襲われるケースもあります。

都市部からレジャーに来た人は熊の習性や怖さを知りません。そのため熊対策をきちんとしないまま入林してしまい、熊に襲われることもあるようです。

また、レジャー中に出会った熊への餌付けや、食べ残しの放置により熊が人の食べ物の味を覚えてしまい、人前に出やすくなる危険性もあります。

熊が人里に下りてくる理由

上記でご紹介した通り、森林内で熊に襲われるケースは多々あります。しかし、秋(9~10月)には、人家周辺での被害が多くなり、全体の4割を占めるほどになります。

なぜ、森林をすみかとする熊が人里に下りてくるのでしょうか。主な理由を以下にご紹介します。

食物不足

熊が人里に下りてくる理由の一つが「食物不足」です。熊は秋になると冬眠に備え、飽食期に入ります。その際重要なエネルギーになるのが先ほどご紹介した「堅果類」です。

堅果類は年ごとに凶作と豊作を繰り返し、さらに豊凶のサイクルはエリア内の同種で連動する傾向にあります。凶作により十分な堅果類が確保できないと、熊は食べ物を求めて人里に下りてくるため、出没頻度が高くなります。

環境省では堅果類の着花結実情報について情報を提供しています。

各自治体においても豊凶調査により、熊の人里への出没可能性を予測しているところもあるため、お住まいの自治体のホームページを確認してみるとよいでしょう。

人の食べ物の味を知った

上記でご紹介した通り、堅果類の豊凶と熊の出没には密接な関係があります。しかし、現在では豊凶にかかわらず、人里に下りてくる熊も増えています。

熊にとって、人里は魅力的な食べ物の宝庫です。たわわに実ったまま放置された柿、コンポストの中の残飯、屋外に積まれたドッグフードや家畜の飼料など、容易に手に入り、味の良い食べ物を求めて森林から下りてきます。

このように熊が人の食べ物の味を知る原因の一つに餌付けがあります。レジャーで森林に入った人が熊に食べ物を与え、人里の食べ物の味を覚えてしまうのです。

このように、熊の事故は「人が森林に入る」、もしくは「熊が人里に出てくる」のどちらかによって起こります。

次の項からは、上記それぞれの状況において、熊に襲われないようにする方法を詳しく解説します。

森林で熊に襲われないようにする方法

森林で熊に襲われないようにするためには、まず「出会わない」ことです。

熊が接近する要因を作らないよう、また、熊が潜んでいる危険性の高い場所に近づかないよう注意することが重要です。

具体的な対策を以下にご紹介します。

食べ物や残飯を残さない

キャンプやハイキングで食事をした後、食べ物や残飯を残しておくと、においに惹かれて熊が近づいてくる危険性があります。

たとえその時点で問題が起きなかったとしても、人の食べ物の味を覚えた熊が森林に入ってきた人を襲うようになったり、人里に下りてきたりするなど、大きな問題に発展する恐れがあります。

食べ物や残飯は全て持ち帰るようにしましょう。

また、食べ物はにおいの出ないプラスチックのバッグに入れる、テント内で調理をしないといった工夫により、熊が人の食べ物に興味を持つ機会を作らないようにすることも重要です。

熊の痕跡に近づかない

熊の痕跡がある場所には絶対に近づかないようにしましょう。

最も危険なのは、熊の食べ残しです。熊は食べ残したシカの死体などに土や草をかける習性があります。これを「土饅頭」といい、一説には自分の所有物であることのアピールであるともいわれています。

熊は自分の獲物に強く執着する習性があるため、土饅頭に近づくと攻撃されることがあり、大変危険です。

他にも、以下のようなものがあれば近くに熊がいる恐れがあります。

 

・糞、足跡、爪痕

・地上に散乱した果樹の枝:熊が折り取った可能性がある

・熊棚:熊が木の芽や果実を食べる時に折り取った枝が鳥の巣状になったもの
熊棚
・熊剥ぎ:熊がスギやヒノキの表皮をはがして内側の柔らかい層を食べた跡

熊鈴やラジオで人がいることを知らせる

熊は基本的に臆病な動物です。人がいることに気づきさえすれば、多くの場合熊の方から人を避けます。

熊対策グッズの熊鈴やラジオで音を出し、人の存在を知らせることで、熊と遭遇する確率を減らせます。
音を出す道具がない時は、手を打ち鳴らしてもよいでしょう。

しかし、歌を歌ったり、話をしたりするとかえって熊を惹きつけてしまう危険性があります。声を発するのが女性や子供の場合、その高い声を聞いて熊が興奮することがあるためです。

熊スプレーを携帯する

万が一熊に出会ってしまった時のために、熊スプレーも携帯しておきましょう。

熊スプレーは唐辛子の辛み成分であるカプサイシンを原料とした、熊を遠ざけるためのスプレーです。熊に吹き付けると目や鼻、粘膜に強い刺激を与え、熊をひるませることができます。

腕力がなくても使うことができ、後に残るケガや病変を熊に与えない点が熊スプレーの大きなメリットです。

しかし、使い方を誤ると効果が出ないばかりか、使用者や周囲の人にスプレーによる被害が及ぶ場合があります。

熊スプレーを使用する際には、その危険性と使用法を充分に理解しておきましょう。熊撃退スプレー比較でそれぞれの商品の比較を行っていますのでご確認ください。

法律と携帯時の注意点に関しては熊スプレーの所持は法的にどうなの?の記事で詳しく解説しているので見てみてください。

 

人里に熊を来させないようにする方法

人里で熊に襲われる被害を減らすためには、熊が人里に近づく要因を減らすことが重要です。

特に優先して行うべき対策は以下の3点です。

 

・誘引物の除去

・遮蔽物の排除

・威嚇装置の設置

 

各項目について詳しく解説します。

誘引物の排除

熊が人里に近づく最大の誘引物は「食べ物」です。熊の手の届くところに食べ物を置かないようにすることで、人里に下りる動機を排除できます。

具体的な対策は以下の通りです。

 

・木に果物(柿や栗など)を実らせたまま放置しない

・屋外にドッグフードや家畜の飼料を置かない

・残飯や廃棄する農作物の適切な処理

・ゴミは収集時間直前に捨てる(夜間にゴミ出しをすると熊を誘引する恐れがある)

 

遮蔽物の排除

熊は警戒心が強く、開けた場所を避ける傾向があります。人里に近づく際も、身を隠せる場所を通ることが多いです。
そのため、藪の排除や耕作放棄地の整備は、熊の接近を防ぐ有効な対策の一つとなります。

威嚇装置の設置

威嚇装置を設置して、熊に「人里に近づくと嫌なことがある」と学習させることも有効です。

熊対策における主な威嚇装置としては、「電気柵」と「爆音機」があります。

 

・電気柵

動物が触れた際に電気ショックを与える柵です。熊は初めての物に遭遇すると警戒して鼻で調べるため、皮膚の露出した部分が電気柵に触れ、強い電気ショックが生じます。

野生下では感じることのない痛みや衝撃は、熊を柵の設置場所から遠ざける強い動機付けになります。

しかし、人里に慣れており警戒心のない場合や、誘引物に強く引き付けられている場合はほとんど効果がありません。柵を鼻で探索せず、そのまま押し入ってしまうためです。背中の毛が柵に触れても電気ショックは生じず、十分な抑止力は期待できません。

熊の警戒心が強い初期段階から、電気柵を設置することで高い効果が望めます。

 

・爆音機

爆音機は大きな爆発音を発し、鳥獣に警戒心を与える道具です。爆発音以外にも、人の怒鳴り声や銃声が鳴る、音と同時に光を発するなど、さまざまな機能を有する装置もあります。

設置が容易で、電気柵と併用できる点が大きなメリットです。

しかし、熊が慣れてしまうと効果がなくなります。また、設置場所が人家に近い場合、騒音問題になることもあるため注意が必要です。

 

熊被害を防止するために行政が行っている施策と課題

次に、熊被害を防止するために行政が行っている施策とその課題について解説します。

熊の出没情報のモニタリングと周知

熊被害を防止するためには、まず現状を把握することが重要です。熊の出没情報や捕獲情報を収集し、分析を行います。また、熊の出没数は堅果類の豊凶と深い関係があるため、堅果類の結実数に関する調査を行うことで出没数を予測できます。

こうしたデータは住民への注意喚起になるだけではなく、熊被害防止の施策を行った前後で数値を比較することで、施策の客観的評価をするためにも有用です。

収集した情報や分析結果を周知することで、熊に関する正しい知識を住民に伝えるとともに、行政の取り組みへの理解・協力を得ることも重要な施策です。現在ではインターネットやSNSを利用したリアルタイムでの情報発信も大いに活用されています。

看板や札の更新

登山道に「熊出没注意」の看板や札を設置するのは、シンプルながら効果的な対策です。しかし、看板や札が古いと、情報自体も古いと判断されてしまう点が問題です。

登山者の注意を引くため、「〇月〇日に〇〇のエリアで熊が出没しました」というような最新情報を看板や札に掲示している行政もあります。

危険な登山道の封鎖

特に出没件数の多い登山道は封鎖します。封鎖の判断を適切に行うためにも、出没情報の収集・分析は欠かせません。

熊に関する教育普及や熊被害防止のための指導

熊に関する教育普及や熊被害防止のための指導も熊被害を防止するために有効な施策です。

熊は人を襲って食べる恐ろしい存在ではありません。基本的には人を避け、森林内で植物中心の採食をしています。

熊の生態について正しく知り、熊を人里に寄せ付けないようにするためにはどうすればよいか、住民一人ひとりが考えられるよう情報を提供するのも行政の役割です。

また、電気柵や爆音機の使い方や設置法の指導も併せて行います。

熊の追い払い

熊が人里に下りてきた時は、まず「追い払い」をします。追い払いとは、熊をなるべく傷つけず、山に追い返すことです。

一般的にはゴム弾や花火弾、爆竹を使って追い払いをします。

軽井沢市では犬(ベアドッグ)を活用した追い払いを行っています。詳細は後述します。

学習放獣

学習放獣とは、熊を捕獲した後で熊スプレーや轟音玉を用い、不快な刺激を与えて逃がすことです。「人里に下りると嫌なことがある」と学習させることで、熊の出没を減らすことができます。

また、先述したベアドッグは、学習放獣の際にも活躍します。

熊に人里の危険性を強く印象付けられるという点が学習放獣の大きなメリットです。

しかし、学習放獣をするためには、まず熊を捕獲しなければなりません。熊の捕獲には手間や費用がかかります。また、熊の体を傷つけない捕獲法や放獣場所の選定も難しく、多くの課題を残しています。

森林の整備

熊の生息地である森林の整備も熊被害を防止するための重要な施策です。

熊の移動範囲は広く、成獣のオスであれば行動半径は10㎞にも及びます。同エリアの個体群が健全に生存、繁殖を繰り返すために十分な面積の森林を確保することで、人里に下りる熊を減らすことができます。

しかし、森林の単位面積当たりの環境収容力(継続的に生存できる生物の最大量)は地域によって異なるため、「熊が生きるためには何haの森林が必要」という共通の見解はありません。

森林の整備における課題としては、地域ごとの環境収容力の把握と、そのデータをもとにした森林の整備・保全が挙げられます。

加害個体の駆除

熊は生態系を構成する重要な存在であり、むやみに駆除することはできません。しかし、人に被害を与えた、もしくは与える危険性が高いなど、逼迫した状況になった時は、加害個体を駆除せざるをえません。

行政は駆除の判断を下し、委託したハンターや猟友会に補殺を依頼します。

ただし、熊の駆除には銃の使用を伴うため、慎重に検討しなければなりません。

熊の駆除についての詳しい手順や課題については、以下の項で詳しくご紹介します。

熊の駆除の手順や課題

先述の通り、人身被害が懸念される逼迫した状態においては、熊の駆除が許可されることがあります。
その際の流れや課題について、最近話題になっている鳥獣保護法の改正についても触れながらご紹介します。

熊駆除の流れ

熊が出没したからと言って、猟友会やハンターがすぐに発砲できるわけではありません。鳥獣保護法により、原則として市街地での銃の使用は禁止されているためです。

行政や行政が委託した外部機関が集約された情報をもとに判断し、発砲許可を出します。

発砲の判断が下ったら近隣住民に周知し、立ち入り制限を行うとともに、監視役を配置します。監視役は安全のため、車中から監視を行うのが一般的です。

市街地で熊に猟銃を使用するためには、鳥獣保護法や警察官職務執行法の順守が必須です。そのため警察が同行し、法の確実な順守と安全確保に努めます。

発砲の際には跳弾(弾の跳ねかえり)が発生することがあります。熊の体を貫通した弾がコンクリートなどに当たり跳弾することもありますので、発砲場所には十分注しなければなりません。バックストップ(安土)を確保しやすい高い場所から発砲するのが理想です。

なお、危険が差し迫っている場合は、警察官職務執行法により、警察や警察の指示による発砲が可能です。

ハンターが先に現場に駆け付け、非常に緊急事態が高いと判断した場合には発砲も可能ですが、後に責任を問われるリスクが伴います。

麻酔銃使用の判断

状況によっては麻酔銃が使用されることもあります。麻酔を打って熊を眠らせることで、熊を殺さず緊急状態に対応できます。また、猟銃より威力が非常に弱いため、周囲への影響が少ない点もメリットです。

麻酔銃使用に適した状況としては、熊が屋内などの逃走できない場所や、逃走する姿を継続して視認できる場所にいる時が挙げられます。

麻酔銃の射程距離は20~30mと短く(猟銃は50~100m)、麻酔が効いて熊が不動化するまでに5~10分程度かかります。

銃の使用者や近隣住民に被害が及ばないよう、使用者の横に盾を持った補佐や、逃走個体を確認するための監視役の配置が必要です。

また、屋外で麻酔銃を使用するためには、熊の逃走経路を塞ぐためのバリケードを設置します。

市街地における銃使用の課題

行政や警察だけでは熊の駆除に対応できません。そのため、行政が委託したハンターや猟友会に実際の駆除を依頼することになります。このことにより、問題が発生したケースもあります。

2018年8月、北海道猟友会の砂川支部長を務める池上氏が、市の要請により熊を駆除したところ「建物の方に向かって発砲した」という理由で猟銃所持許可取り消しの処分を受けました。

しかし、駆除の現場は建物から8m下の崖下で危険はないと判断されています。また、警察官が同行し、人払いを行っていたことから、発砲は容認されていたと考えて差し支えない状況でした。

熊は問題なく駆除され、周囲への被害はありませんでしたが、上記の理由により池上氏は猟銃を没収され、鳥獣保護法違反や銃刀法違反により書類送検されました。その後不起訴処分となったものの、没収された猟銃は返却されていません。

なお、池上氏の発砲が事件として扱われたのは、駆除の現場にいたもう一人のハンターとのトラブルが原因ともされています。

この事件は未解決なこともあり、不可解な要素も多々あります。しかし、市の要請により駆除活動をしたハンターに不利益が生じたことは間違いありません。このような状況が続けば、駆除要請に応じるハンターが減少し、対応が困難になる恐れがあります。

鳥獣保護法の改正

上述の通り、市街地における猟銃の使用は鳥獣保護法により原則禁止とされています。

緊急事態においては警察の指示により発砲も可能ですが、判断に時間を要します。

熊被害に迅速に対処するため、政府は市街地でも市町村の判断で特例的に猟銃の使用を可能とする改正案を閣議決定しました。

改正後の法律においては、以下の条件を満たした場合、市町村が確認したうえでハンターに委託、猟銃による駆除が可能とされます。

 

・クマが住宅地など人の生活圏に出没したり、建物に侵入したりしている

・緊急に危害を防ぐことが必要になっている

・迅速に捕獲できる手段がほかにない

・住民の安全が確保できている

 

現在の法律ではハンターの責任が重く、池上氏の事例のように駆除要請に応じて不利益をこうむることもありました。

改正後においては、市町村が私有地への立ち入り許可や被害が生じた際の補償をすることで、ハンターの負担軽減を図ります。

また、今後の対応として、環境庁は市街地での猟銃の使用にあたり確認すべき条件や具体的な手順を示したガイドラインやクマに対応できるハンターのリストを作成、市町村が参照できるようにするとしています。

政府は今回の通常国会中に改正案を成立、熊の出没が増加する秋までに体制を整える方針です。

市街地での発砲はハンターにとって大きな負担を伴います。単に熊に向かい合うという危険だけではなく、発砲の責任を問われることもあるためです。

今回の法改正は市街地における熊被害に迅速に対応できるだけではなく、ハンターの負担を軽減させ、駆除要請に応じやすくなる効果も期待できます。

熊に襲われた時の対応

熊に出会わないよう、襲われないようしっかり対策をしても、熊に遭遇してしまう場合がります。その際にパニックを起こしてしまうと、熊を刺激して被害が拡大してしまいかねません。

熊に遭遇したらどうするのか?取るべき行動を以下にご紹介します。

熊から目をそらさず後ずさりする

背中を向けて走って逃げると、熊を興奮させてしまいます。
熊は時速40~60㎞で走ります。瞬発力も高いため、追いかけられるとまず逃げ切れません。

熊から目をそらさず、ゆっくり後ずさり、その場から遠ざかりましょう。

熊が突進してきても慌ててはいけません。先述の通り、熊の突進の多くは威嚇突進行動(ブラフチャージ)です。相手が何もしないと途中で止まり、そのまま逃げていくことが多いです。

物を振り回す

長いものを振り回すと熊は警戒して逃げることがあります。熊に遭遇した人が、ピッケルやのこぎり、バケツ、スコップなどを振り回し、熊を撃退したという実例があります。

うつぶせになり首を守る

熊に襲われた時はうつぶせになって手を後ろに組み、肘で顔の側面を包む「防御姿勢」を取ります。
防御姿勢を取ることで、急所である顔、首、前半身を守れます。

通常、熊の防御的攻撃は30秒~1分で終わるため、その間を耐えられれば生存できる可能性は高まります。

とはいえ、熊の歯や爪は非常に大きく鋭いため、熊の攻撃を受けてじっと耐えられるものではありません。また、執拗に攻撃される恐れもあります。

攻撃が長引く場合は隙をついて逃げる、もしくは熊スプレーや武器で応戦するなど、臨機応変に対応する必要があります。

熊スプレーや武器で応戦する

熊の攻撃が執拗で命の危険がある場合は、熊スプレーや武器で応戦することも選択肢に入ります。

先述の通り、熊スプレーはカプサイシンによる刺激で熊を追い払います。熊が十分に接近していること、自身にも被害が及ぶことを理解したうえで使用することが重要です。

武器としてはナタ、ナイフ、ロングドライバー、ストックなどで撃退した実例があります。
口の中や喉元など、致命傷になりやすい部分を攻撃すると熊をひるませやすいようです。

2023年には北海道でヒグマに襲われた男性がナイフでヒグマの喉元を刺して撃退しました。
後にそのヒグマは死体で見つかり、未麻酔のクマをナイフで殺傷した非常に珍しい事例となりました。

ただし、応戦することでかえって熊を興奮させ、攻撃が激化してしまう危険性もあります。熊への攻撃は、あくまで最終手段であると考えておきましょう。

熊に襲われた後の対応

万が一熊に襲われてしまった場合は、自身の命を守ると同時に、再発を防ぐための対処をすることが重要です。

熊を目撃、もしくは襲われた後の対処法を以下にご紹介します。

熊の気配を確認しながら逃げる

熊が去って行った後も、すぐ近くに隠れている危険性があります。
落ち着いて熊の気配や足音を確認し、木から木へ隠れるようにして逃げましょう。

応急処置をする

ケガをしていたら止血や応急処置を行います。森林に入る際には応急処置セットを持っておくと安心です。

救助を依頼する

歩けないほどケガがひどい場合は救助を依頼します。しかし、特に山中では電波が届かないこともあるため注意が必要です。

携帯キャリアの中には携帯電話が利用できる登山道の情報を提供しているところもありますので、入山前に必ず確認しておきましょう。

 

参考:NTTdocomo 携帯電話をご利用になれる登山道

参考:au 携帯電話がご利用いただける登山道

 

下山する

自身で移動できる場合は速やかに下山します。重い機材やザックは置き、軽装で下山しましょう。

恐怖のためやみくもに下山すると道に迷う恐れがあります。上ってきた道、もしくは知っている道を通りましょう。

警察署や役場に報告する

無事下山できたら、熊に遭遇したことを警察署もしくは役場に報告します。以下のような情報を聞かれることが多いので、メモで整理しておくとスムーズに報告できます。

 

・目撃した日時

・目撃した場所

・頭数

・体長

・被害の程度

 

熊が人を襲う事故を防ぐための行政の施策と課題

最後に、熊が人を襲う事故を防ぎ、熊と共生するための取り組みを行っている地域の事例をご紹介します。

知床半島(北海道)

北海道の知床半島では、斜里町・羅臼町にヒグマ管理対策を委託された公益財団法人「知床財団」により、ヒグマの出没情報収集及び対応が行われています。
誘引物の撤去や情報提供といった防御的施策に加え、熊の出没時には住民の避難誘導や熊の追い払い、状況によっては補殺に踏み切ることもあります。

特に知床財団が力を入れているのが、ヒグマと共生するための意識改革です。知床ではヒグマのリアルな写真を撮影するため、過度にヒグマに近づくカメラマンや観光客が増えています。
観光客が餌付けをしてしまい、人里に下りる習慣のついた若い熊を駆除せざるをえなかった事例もあります。

そうした事態を防ぐため、知床財団ではSNSを使ったリアルな情報提供や「ストップエサやりキャンペーン」実施、小学校への教育普及活動に取り組んでいます。

熊は排除すべき危険物でも、珍しい被写体でもありません。

知床財団は熊を豊かな知床の自然を構成する重要な存在として尊重し、共生する手段を模索し続けています。

軽井沢町(長野県)

軽井沢はホテルや別荘地が多く、ゴミ管理のずさんさからツキノワグマが人の生活地に侵入する事態が相次ぎ大きな問題となっていました。

そうした事態に対応するため、特定非営利法人「ピッキオ」は軽井沢市の委託を受け、熊の保護管理に取り組んでいます。

具体的な対策としては誘引物の除去や遮蔽物の刈り払い、教育普及などが挙げられます。
特筆すべきは「野生動物対策ゴミ箱」の開発・設置です。取手の形状に工夫が凝らされ、熊には開けられない仕組みになっているこのゴミ箱の導入により、熊被害は激減しました。

もう一点特徴的な対策としてベアドッグの活用があります。ベアドッグは熊のにおいや気配を探知するための特別な訓練を受けた犬で、調査時のスタッフの安全確保や熊の追い払い、学習放獣時の忌避要因といった役割があります。

兵庫県

中四国地域では熊の生息地の縮小により、1992年には県内の推定生息数が100頭未満にまで減少。絶滅が危惧されるほどになりました。

そうした状況を受けて兵庫県では1996年よりツキノワグマの狩猟を禁止しました。

2003年からは保護管理計画を策定し、人身被害ゼロと個体数の維持を目的として、ゾーニング管理、個体数管理、普及啓発などの施策を進めています。

2007年には個体群の状況診断やモニタリング研究、現場対応を専門的に行う施設として森林動物保護センターを設立。熊に限らず、猿や鹿などの野生動物の保護と被害対策、外来生物対策、獣害に強い集落作りといった自然の有効活用と共生を目指した活動にも取りくんでいます。

その結果、2015年度には推定生息数の中央値が940頭になり、絶滅の危機を脱しました。これを受け、2016年度から狩猟が制限付きで解除されました。

人身被害については、2002年以降の調査において年0~2件程度で推移しており、死亡事故は発生していません。
しかし、熊の出没情報を受けて早朝や夜間の外出を控えたり、中学校のクラブ活動時間が短縮されたりと、近隣住民の日常生活に影響が出るケースもあります。

生息数の回復に成功した現在、熊の出没数を以下に抑えるかが兵庫県の新たな課題となっています。

まとめ

熊が人を襲う事態の防止策についてご紹介しました。熊による被害を受けないようにするためには、まず「熊に出会わないこと」が重要です。熊を誘引する原因となる食べ物を適切に管理したり、人の存在を熊に知らせたりすることで、熊との遭遇を減らすことができます。

行政においても、熊被害を防止するためのさまざまな対策を行っています。特に登山道の管理や熊の追い払いは個人では困難であるため、行政が積極的に対応しなければなりません。

また、熊が市街地に出没し、被害を与える恐れがある場合には、猟銃による駆除の判断を下すのも行政の重要な役割です。駆除を行う際には実行者や近隣住民の安全確保及び、法の順守に努める必要があります。

しかし、熊の駆除はあくまで最終手段です。熊は森林の生態系の一員であり、保護すべき野生動物であるためです。熊の存在を尊重し、生息環境を守ることこそが、最も効果的な熊被害対策といえるでしょう。

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