熊に遭遇したらどうする?対処法やNG行動を解説
近年、人里に下りる熊が増えており、熊に遭遇する危険性が高まっています。また、ハイキングやドライブで山に入り、熊と出会ってしまうケースもあります。
なぜ、熊に遭遇、熊が人を襲う事件が増えているのでしょうか。また、熊に遭遇してしまった場合、どのように身を守れば良いのでしょうか。
今回の記事では、熊の遭遇に備えてすべきこと、熊と遭遇した時にすべきことを解説します。熊の出没が多いエリアにお住まいの方や、山へのレジャーを予定している方は、ぜひ最後までお読みになり、熊から身を守るための知識を身につけてください。
見出し
熊の出没件数と人身被害者数の推移
以下のグラフ及び表は、環境省が調査した熊の出没件数と熊被害者数の推移をまとめたものです。
出没数 | 被害者数 | 被害者数/出没数 | |
令和2年度 | 20,887件 | 158人 | 0.76% |
令和3年度 | 12,743件 | 88人 | 0.69% |
令和4年度 | 11,135件 | 75人 | 0.67% |
令和5年度 | 24,348件 | 219人 | 0.90% |
令和6年度 | 20,357件 | 85人 | 0.42% |
※都道府県から聞き取った速報値であり、今後数値が変更する場合があります。
※出没数は、都道府県ごとに異なった方法により取りまとめたものです。
※出没数は北海道を除きます。(北海道は公表していません)
※人身被害件数は令和7年3月までの速報値、出没情報及び捕獲数は令和7年2月までの速報値です。
令和6年度の出没件数は20,357件(2月までの速報)であり、過去最多と言われる令和5年度の24,348件よりは少ないものの、令和3、令和4年度の倍程度に及んでいます。
ただし、人身被害者数は85件(3月までの速報値)で、出没数に対して例年より低い0.42%にとどまっています。令和6年度の被害者数が例年より割合として少ないのは、熊が人里に下りる問題が恒常化し、対策が進められているためであるとも考えられますが、正確な評価には来年度以降の数値との比較が必要です。
熊との遭遇事例
「山に入らなければ熊には会わない」、「住宅地にいれば大丈夫」と思われる方も多いかもしれません。しかし、最近では街中や住宅地に近い山林でも熊との遭遇事例があり、重傷を負う事故も発生しています。
最近のニュースから、熊との遭遇事例をいくつかピックアップしてご紹介します。
【北海道】自転車で帰宅中の高校生が熊に追いかけられる
2025年4月12日、北海道北広島市にて、自転車で帰宅中の高校生2人が、道沿いの林の中にヒグマを見つけました。ヒグマは体長1mほどの大きさで、高校生が自転車で逃げると林の中を走って追いかけてきました。ヒグマは100mほど追走した後、いなくなっていたそうです。
高校生2人にケガはありませんでしたが、2人を追いかけたヒグマの特定にはいたっておらず、安心はできない状況です(2025年4月28日現在)。近年北海道では熊被害が頻発しており注意が必要な状況です。
【長野県】住宅ガラスを突き破って室内に入った熊が人を襲う
2025年4月9日、長野県飯山市の民家にて3人の男女が熊に襲われました。
熊はツキノワグマの成獣で、体長は1m程度。車庫で60代の男性が顔や頭を噛まれたり引っかかれたりして重症を負いました。さらに熊はガラス戸を突き破り室内に侵入、90代男性に重症、60代女性に軽症を負わせたのち、藪の中に姿を消しました。飯山市は飯山警察署及び飯山市猟友会と連携して巡回パトロールを行っていますが、当該熊の発見には至っていません(2025年4月17日 飯山市HPによる情報)。
【栃木県】山林で2~3頭の熊に襲われる
2024年7月1日、栃木県日光の山林で50代の男性がツキノワグマに襲われた事件です。
男性は近隣の病院で働いており、休憩中に近くの森林に入ったところ、2~3頭の熊の影が見えました。男性は急いで逃げたものの、熊に後ろから覆いかぶされて襲われたそうです。男性は勤務地の病院まで走り、耳や背中の軽いケガだけでなんとか逃げ切ることができました。
現場は国道沿いで、周辺に民家や工場が点在しています。この事件は、人の往来がある場所の近くでも熊に遭遇する危険があることを示しています。
熊との遭遇が増えている理由
近年、熊との遭遇が増えている理由としては、以下の3点が挙げられます。
・堅果類の凶作
・自然環境の悪化
・過疎化・高齢化
それぞれの項目について、以下に詳しくご紹介します。
堅果類の凶作
熊の出没数に大きな影響を与えているのが、ドングリやブナの実のような堅果類の凶作です。
堅果類の結実量には毎年波があり、さらに同エリア、同種において同調する傾向にあります。つまり、凶作の年は地域内での結実量が大きく減ってしまいます。
堅果類は冬眠前の熊にとって、重要なエネルギー源です。堅果が凶作の時、熊はそれに変わるエネルギー源を求めて行動範囲を広げます。その結果、人里に下りてくる熊が増えてしまうのです。詳しくは熊の主食の記事をご覧ください。
自然環境の悪化
自然環境の悪化も熊の出没件数に影響を与えています。
第一の影響が「地球温暖化」です。気温が高くなると、冬眠から目覚める時期が早まります。そのため自然界で食料を見つけるのが難しくなります。
第二の影響が「自然破壊」です。山林が切り払われたことから、山の中にある昆虫や木の実といった食料が減少しました。
上記の理由から、食料を求めて人里に下りる熊が増えたと考えられています。
また、母子の熊にとっては、生息地が狭まったことで、オス熊と会うリスクが増えてしまいました。オス熊は母子の熊に会うと、繁殖を有利に進めるため子熊を殺してしまうことがあります。
そのため、母子の熊がオス熊を避けるようとして人里に下りるケースが増えていると考えられています。
過疎化・高齢化
過疎化・高齢化も人里に下りる熊を増やす要因になります。
昔は農林業や山菜・きのこ摂りのため、日常的に山に入る人が多くいました。人の頻繁な往来は熊の出没を抑制する効果があったと考えられています。
しかし現在では、山に入る人が少なくなりました。その結果、熊の人に対する警戒心が薄れたことが、人前に出没する機会が増えた要因の一つです。
加えて、過疎化・高齢化により森林や畑の手入れが行き届かず、放置されるようになりました。生い茂った木々や藪は熊が人目を避けて人里に下りる格好の通り道になります。
過疎化・高齢化による山林の放置は人と熊との境界線をあいまいにし、熊が人里に下りやすくしているのです。
熊と遭遇しやすい時期
熊と遭遇しやすい時期は、初夏(5~7月)及び秋(9~11月)です。それぞれの時期において出没件数が増える理由と、注意すべき点について以下に解説します。
5~7月
初夏は熊にとって大きな変化の時期です。母熊と別れ、単独行動を始めた若い熊が増える「子離れ」の時期と、交尾期(繁殖期)が重なるためです。
交尾期、オスはメスを探して行動範囲を広げるため、人と遭遇しやすくなります。
また、若い熊は成獣のオス熊を恐れるため、警戒心が強くなっています。その際に人と出会うと、人をオス熊と見なし、執拗につきまとい、攻撃を繰り返す場合があり大変危険です。
また、若い熊は好奇心が旺盛です。遊びのつもりで人に攻撃することもあるため、被害が大きくなる恐れがあります。
9~11月
秋は最も熊の出没数が多い時期です。先述の通り、秋は冬眠に備えて大量のエネルギーが必要になります。そのため熊は食べ物を求めて行動範囲を広げ、人里に下りる機会が増えます。
人里だけではなく、山林においても熊に遭遇する機会が増えます。秋はトレッキングのシーズンであり、登山を楽しむ人が増えるためです。また、人が秋に採取する栗やキノコは、熊に取っても大切な食料です。採取のために山に入り、熊に遭遇するケースも少なくありません。
熊と遭遇しやすい時間帯
熊は早朝と夕方に活発に活動する「薄明薄暮性」の動物です。そのため、この時間帯は特に熊と遭遇しやすくなります。犬の散歩やゴミ出しで外出すると、においにより熊を興奮させてしまうことがあるため危険です。
また、天気が悪く薄暗い日は昼間に行動することがあります。
熊と遭遇しやすい場所
環境庁の調査によると、熊と遭遇しやすい場所は以下の4つです。
・森林
・河川敷
・農地
・人家周辺
それぞれの場所について、熊に遭遇しやすい理由と注意点を述べていきます。
森林
森林は季節を問わず熊との遭遇が多い場所です。
農林業やキャンプ、ハイキングといったレジャーで山に入り、熊と遭遇してしまうケースは非常に多いです。
森林は木や藪が生い茂っているため視認性が悪く、熊が近づいてもすぐに気づくことができません。そのため熊とはちあわせをしてしまい、興奮した熊に襲われてしまうことがあります。
また、冬場も油断はできません。冬眠開始時期は地域や個体差がありますが、概ね11月頃からとされています。詳しくは熊の冬眠はいつから?をご覧ください。
熊が冬眠していることに気づかず、穴をのぞきこんで襲われてしまった事例もあるため注意が必要です。
河川敷
河川敷での熊との遭遇は特に夏場に多く発生します。
河川敷はセイタカアワダチソウやツルヨシといった背の高い草が生い茂っていることも多く、熊の通り道になりやすい場所です。また飲み水や魚、昆虫、果実などの食料も熊を惹きつける要素になっています。
河川敷は人々にとっても憩いの場であり、釣りやジョギング、犬の散歩などに利用されています。そのため、熊と遭遇する確率が高くなってしまうのです。
農地
農地での熊との遭遇は特に6月、8~11月に多く発生します。
山に食べ物が少なくなる夏季や、冬眠前の飽食期に、農作物を求めて農地に来るケースが多いようです。農作物は大量かつ容易に手に入るうえ、味もいいので、一度農作物を食べることを覚えた熊は、人に遭遇するリスクを冒してでも農地に来るようになります。
特に熊による食害が多いのは北海道のデントコーン(飼料用のトウモロコシ)です。飽食期に収穫時期を迎えるデントコーンは、ヒグマにとって重要な栄養源です。デントコーンは茎が2mにも伸びるため、熊の姿が確認しづらく、銃撃が難しい点も被害を拡大させる要素になります。
ヒグマによるデントコーン食害の被害額は2020年で1億3,700万円にも上っており、重大な社会問題になっています。
人家周辺
人家周辺での熊との遭遇は、特に9~12月に多く発生しています。
冬眠前の飽食期に高エネルギーの食料が必要になった熊が、人家近くの果樹や生ごみ、動物の飼料を求めて人里に下りてくるためです。
また、近年では冬眠期である12~2月頃の出没事例も見られるようになりました。暖冬や栄養不足により冬眠できない個体が増えていることが原因であると考えられています。
熊と遭遇したらどうする?
熊との遭遇はいまや珍しいことではありません。熊の生息するエリアであれば、人の生活域にも熊が現れるリスクがあります。
もし、熊と遭遇してしまったら、どうすればいいのでしょうか。
熊と遭遇した際に取るべき行動、取ってはいけない行動を以下に解説します。
熊と遭遇したらやってはいけないこと
熊に遭遇した際、絶対に熊を刺激しないようにしましょう。興奮した熊に襲われる危険性があります。
熊と遭遇した時のNG行動は以下の通りです。
写真を撮ろうとして近づく
珍しいからと写真を撮ろうとして熊に接近したり、追いかけたりするのはやめましょう。熊を興奮させてしまい、襲われるリスクがあるためです。
また、人の接近に熊が慣れてしまうと、市街地に出没する可能性もあります。人身被害のリスクが高まるだけではなく、熊を補殺せざるをえない事態にもなり、人、熊ともに望ましくない結果になってしまいます。
2023年10月、環境省釧路自然環境事務所は北海道の知床国立公園内でヒグマに30m未満の距離で接近することと、50m未満でつきまとうことを禁じる規制を出しました。
人と熊、お互いの命を守るためには、熊と一定の距離を保つことが重要です。
慌てる
熊と遭遇すると大抵の人はパニックになります。しかし、まずは慌てず、落ち着かなくてはなりません。慌てると熊の動きを冷静に見られず、適切な対処が取れなくなってしまうためです。
背中を向けて逃げる
背中を向けて全速力で逃げるのは危険です。先述の熊が自転車に追走した事例からも分かる通り、熊は走るものを追いかける習性があるためです。
熊は足が速く、時速40〜50kmで走れます。人の足では、まず逃げ切れません。走るのではなく、後ずさりながら熊からゆっくり離れる方が、安全性は高いです。
熊をにらみつける
熊に遭遇したら目を見るように、といわれることがあります。
熊から目をそらすのは危険ですが、睨みつけるのもよくありません。敵意があるとみなされ、襲われてしまう恐れがあります。熊を直接にらまないよう、視野の隅でとらえるイメージを持つとよいでしょう。
しゃがむ
熊が怖いからとしゃがみこむのは危険です。しゃがむと姿が小さくなり、熊の攻撃を誘発しやすくなるためです。
山菜採りやきのこ狩りでしゃがんでいる時も襲われやすいため、注意が必要です。
大声で脅かす、大きく動く
大声を出したり、大きく動いたりして熊を驚かせるのはやめましょう。パニックになり襲いかかってくる場合があるためです。
しかし、逆に棒など長いものを振り回して熊を追い払ったという事例もあるため、完全な禁止行為とはいいきれません。威嚇や攻撃をすべきかどうかは、熊との距離や熊の行動に応じて判断する必要があります。
※判断方法は後述します。
死んだふり
昔から、熊に遭遇したら「死んだふり」をすると良いといわれています。これは迷信ともいわれていますが、全くの間違いとはいえません。熊は動きがないものに対して攻撃を弱める習性があるためです。
しかし、かえって熊の興味を引き、触ろうとしたり、餌と認識されて噛まれてしまったりするなど、危険な面もあります。
現在では、死んだふりよりうつ伏せになって急所を守る防御姿勢の方が有効であるといわれています。
犬をけしかける
熊に遭遇した際、連れている犬をけしかける人もいますが、これは非常に危険です。犬が熊に吠えかかり、撃退に成功する例もある一方、犬に刺激された熊が逆に襲いかかってくるケースも多く見られます。
ヒグマの保全活動を行っている北海道の知床財団は、熊に対する訓練を受けていない犬を生息地に連れて行かないよう呼びかけています。
ザックを投げる
熊に遭遇した場合の対処法として、ザックを投げて熊の注意をそらし、その隙に逃げるという方法が知られています。一定の効果がある場合もありますが、以下のような問題点もあるため、常に適切な方法とはいえません。
・熊の気をそらせるのは1秒程度と短い場合がある。
・ザックを手放すと背中が無防備になるため、熊に襲われた時の被害が大きくなる。
・熊に「人を襲えば食料が手に入る」と学習させてしまい、事故の再発を招く恐れがある。
【距離別】熊と遭遇した時に取るべき行動
熊に遭遇した時は、まず落ち着いて熊を観察します。熊との距離や熊の行動によって、取るべき対処法が異なるためです。
熊と遭遇した時に取るべき行動を、距離別にご紹介します。
遠くにいる場合(50~100m程度)
熊が50~100m先にいる場合は、熊の行動をよく観察します。注目すべきポイントは、熊がこちらに気づいているか、また近づこうとしているかという点です。
熊の行動ごとの対処法をまとめると以下のようになります。
熊の行動 | 対処法 |
熊が気づいてない、もしくは気づいていても近づいてこない場合 | そっとその場から離れる |
熊が近づいてくる場合 | 穏やかに話しかけるなどして、存在を伝える ※多くの場合、人の存在に気づけば熊の方から逃げる |
※上記の対処をしても近づいてくる場合 | 大きな声と音を立てて威嚇する |
近くにいる場合(20~50m程度)
熊が20~50m程度の近距離にいる場合は、熊を刺激しないように注意しつつ、距離をとることが重要です。
まずは熊に顔を向けて穏やかに話しかけます。しかし、先述の通り熊をにらみつけてはいけません。敵意があると見なされてしまうためです。
話しかけながらゆっくり熊との距離を取ります。熊の突撃に備えて、熊との間に木や岩などの障害物が来るよう後ずさりすることも重要です。
さらに熊が接近し、逃げ場がない場合は威嚇をします。倒木や岩の上に立って自分を大きく見せ、大きな音や声を出して熊をけん制します。熊スプレーやナタ、棒などがあれば準備をしましょう。
至近距離(20m以下)
熊が急に目の前に現れた、もしくは熊から近づいてきた場合は、襲われる危険性が非常に高いです。熊の突撃に備え、熊と自分の間に障害物が来るよう移動します。
熊撃退スプレーを持っている場合は準備をします。
親子の熊に出会ってしまった場合
親子の熊に出会った時は特に注意が必要です。母熊は子熊を守るため、積極的に人に襲いかかる傾向が強いためです。
2024年4月には、北海道根室市で山菜取りのために入山した軽トラックに熊が襲いかかる事件がありました。この熊は今年生まれたばかりの子熊を連れた母熊であり、子を守ろうとする本能から、自分よりも大きな軽トラックに向かっていったものと考えられています。
なお、車は破損したものの運転手にけがはありませんでした。
親子の熊に出会った時は、刺激しないよう注意しながら、ゆっくりとその場を離れるようにしましょう。
乗り物に乗っている時に遭遇した場合
続いて、乗り物に乗っている時に熊と遭遇した場合の対処法をご紹介します。
先ほどの北海道の例であったとおり、熊は自転車に乗っている人を追いかけることがあります。
自動車に乗っている時も注意が必要です。クラクションや急発進で熊を刺激してしまうと、襲われる危険性があります。
乗り物に乗っている時に熊と遭遇した場合の注意点を以下にご紹介します。
自転車
自転車に乗っている時に熊を見かけたら、まずは停止して熊の様子を確認します。熊がこちらに気づいていないようであれば、Uターンしてゆっくり遠ざかりましょう。
熊がこちらに気づいている場合は、自転車から下り、熊との距離に応じて歩行時と同じ対処を取ります。
なお、サイクリング時に熊に遭遇し、自転車をバリケード代わりにした人が、自転車を飛び越えられ、襲われた事例があります。自転車は武器や盾代わりに使えるように思われますが、過信するのは危険です。
自動車
自動車で走行中に熊に遭遇した際には、停止やUターンは望ましくありません。熊に進路をふさがれてしまう危険性があります。
なるべく車を止めず、対向車と熊の動きに注意しながら、ゆっくり熊の隣を通り抜けましょう。
熊を驚かそうとしてスピードを速めたり、クラクションを鳴らしたりするのは危険です。熊を興奮させてしまう危険性があるためです。
熊に襲われた時の対処法
さまざまな対処を取ったにもかかわらず、熊に襲われてしまった場合は、自分の命を守るための行動を取らなくてはなりません。
基本となるのが致命傷を避けるための「防御姿勢」ですが、熊スプレーや武器になるものを持っている場合は反撃することも一つの選択肢です。
熊に襲われた時の主な対処法を以下にご紹介します。
防御姿勢を取る
熊に襲われたら、致命傷を避けるために「防御姿勢」を取ります。
まずはうつぶせになり、急所となる顔や腹部を守ります。首の後ろに手を回し、肘を額の方へ引き付けることで、首や顔の側面をガードすることも重要です。
ザックを背負っていれば背中は守られます。熊に突き飛ばされて姿勢が変わった場合は、その勢いで元の姿勢に戻ります。
熊の防衛反応としての攻撃は1分程度で終わる場合が多いです。その短時間を防御姿勢で乗り切ることができれば、致命傷を避けられる可能性が高まります。
しかし、中には執拗に攻撃を繰り返す熊もいます。その場合は隙を見て逃げる、もしくは反撃に転じる必要があるでしょう。
熊スプレーを使う
熊が接近してきたら、熊スプレーをすぐに使えるよう準備しておきましょう。慌てて使うと効果がないばかりか、自身にダメージが及ぶ危険性があります。
なるべく風上(風の吹いてくる方)から使い、自身や周囲の人がスプレーの噴射を受けないようにすることが重要です。熊がスプレーの有効距離内に入ってきたら、目・鼻・口を狙って噴射します。
※有効距離や使用法は製品によって異なります。熊スプレー比較にて比較しているのでご参照ください。
反撃する
熊が近距離まで接近し、逃げ道がない場合は反撃も一つの選択肢となります。ナタやストックなど、武器になりそうなものがあれば振り回したり熊を突いたりして攻撃しましょう。
反撃して熊を追い払った事例としては以下のようなものがあります。
・ストックで熊の口の中を突いた
・ハサミで熊の口の中を突いた
・ピッケルで熊の頭を殴った
・ナタで熊を切りつけた
・木材で熊を殴った(この熊は死亡)
熊は鼻や口の中が急所であるため、そこを狙って攻撃すると効果が高いとされています。しかし、熊に接近、攻撃されている最中に正確に攻撃をするのは困難です。
振り回した刃物でけがをしたり、熊を刺激して攻撃が激化してしまったりする恐れもあります。熊に反撃するのは「最終手段」と考えておきましょう。
熊に遭遇した後すべきこと
熊が攻撃をやめ、去って行った後も安心はできません。すぐそばで人の行動を見ていることがあるためです。
自分は無事でも、他の人が再度被害を受ける危険性もあります。
熊に遭遇した後で、自分を守るために、また他の人を守るためにすべきことを以下にご紹介します。
けがの手当て
熊に襲われた時は、まずけがの手当てをします。傷を流水で洗い、消毒や止血を行いましょう。応急処置用のキットを用意しておくと安心です。
大けがの場合は救助を要請します。携帯電話の電波状況を調べる、無線機を携帯するなど、救助連絡ができるよう準備しておきましょう。
※無線機を使用するためには登録手続きや資格取得が必要になる場合があります。
下山する
山中で熊に襲われた時はすみやかに下山します。重い荷物は置き、通り慣れた道をゆっくり降りましょう。
熊に追跡されている場合もあるため、周囲に気を配り、障害物から障害物へ身を隠すように移動することも重要です。
自治体や警察署に知らせる
安全な場所まで避難できたら、自治体や警察に熊の出没情報を知らせましょう。その際には以下の点を伝えます。
・目撃した日時
・目撃した場所
・頭数
・体長
・行動
・被害の程度
・その他の情報(周辺の状況や他に人がいたかなど)
熊との遭遇に備えてすべきこと
人と熊の住まいの境界線が曖昧になっている現在、いつ、どこで熊に遭遇するか予測はつきません。普段から熊に遭遇した時の対策をする必要があります。また、入山する時は「熊の住みかに入る」ことを意識して、しっかり準備をしましょう。
熊との遭遇に備えてすべきことを以下にご紹介します。
最新情報を収集する
旅行や登山をする時は、そのエリアにおける熊の出没情報をチェックしましょう。熊の出没情報は、地方自治体のホームページや新聞、熊出没情報アプリなどで調べることができます。
訪問予定地で熊の出没が多数報告されている場合は、訪問そのものを控えるという選択肢も検討しましょう。
持ち物をチェックする
入山する際には熊対策のグッズを携帯しましょう。この場合の「熊対策」とは、「熊に遭遇しない」、「遭遇した際の被害を最小限にとどめる」という2種類の意味があります。
目的 | グッズ | 使用用途 |
熊に遭遇しないため | 熊鈴、ラジオ、爆竹、ホイッスル、エアホーン | 音を出して熊に人の存在を知らせる |
蚊取り線香 | 自然界にない臭いで人の存在を知らせる | |
フードコンテナ | 熊を引き寄せる原因となる食べ物の匂いが外に漏れるのを防ぐ | |
遭遇した際の被害を最小限にとどめるため | 熊スプレー | 熊を追い払う |
ヘルメット | 熊の攻撃から頭を守る | |
救急セット | 熊に襲われて負傷した際に手当てをする | |
ナタ | 振り回して熊を威嚇する、熊に反撃をする ※最終手段 |
上記の熊対策グッズは熊対策以外の利用法もあります。たとえばナタは低木ややぶを切り払うのに役立ちます。蚊取り線香や救急セットは熊の出没にかかわらず携帯しておきたいグッズです。
また、熊スプレーはザックに収納せず、肩ベルトに装着するか、ホルダーを使って胸部や腰ベルトに固定すると、いざという時すぐに使用できます。
複数人で行動する
単独行動をすると熊に襲われやすくなります。入山する際には、可能な限り複数人で行動しましょう。万が一熊に襲われた際も、複数人いると熊は狙いを定めづらく、攻撃が分散する可能性が高くなります。緊急時に応急手当や救助要請が分担できる点も、複数人で行動するメリットです。
熊に襲われた時の対処法や役割分担、逃げる時や熊スプレーを使う時の合図などをあらかじめ決めておくと、有事の際の混乱を防げます。
熊に関する知識を学ぶ
熊に関する知識を得ることで、熊に遭遇した際に正しく対処できるようになります。
熊に関する研修会やセミナーへの参加、書籍・動画などの自主学習を通じて、熊の生態や行動を学びましょう。
また、知ることは、熊を尊重する第一歩でもあります。
熊をやみくもに敵視したり怖がったりするのではなく、自然界における熊の役割を理解し、熊を尊重する姿勢を持つことで、熊と共生するためにはどうすれば良いのか、自ら考える姿勢が見につきます。一人ひとりが根本的な熊対策を考え、行動に移すことで、地域全体の安全が実現できます。
まとめ
熊に遭遇した際の対処法や、遭遇に備えて行うべき準備を解説しました。環境の変化や少子化・過疎化により人と熊の生活圏の境界が曖昧になっている現在、山林はもちろんのこと、農地や河川敷、人家周辺においても熊の出没が増えています。いつ、どこで熊に遭遇するか分からない状況において、被害を最小限にとどめるよう対策を行うことの重要性が増しています。
熊と遭遇した際、最も重要なのが「落ち着く」ことです。慌てて逃げたり、大声を出したりすると、熊の攻撃行動を誘発してしまう恐れがあります。熊との距離や熊の行動をよく観察し、適切な行動を取りましょう。
また、熊に関する情報収集も重要です。熊の出没情報をいち早く知ることで、出没エリアに近づかないようにする、出没エリアを訪れる際には対策をきちんとするといった対処を取ることができます。
あわせて、熊の生態について理解を深めることも必要です。熊は単なる「人を襲う恐ろしい獣」ではなく、山の生態系を構成する重要な存在です。熊を正しく知り、熊を尊重することが、真の意味での「共生」につながります。