熊の主食は肉?ドングリ?季節ごとの熊の主食と食性の特徴について解説
皆さんは熊が主に何を食べているかご存じでしょうか。動物を襲って食べる、もしくはドングリを食べると思われていることが多いかもしれません。しかし、熊は基本的になんでも食べる雑食の動物であり、季節ごとに容易に手に入る食べ物を効率よく採食しています。
このページでは、「熊の主食」をテーマに、熊の季節ごとの主食や食性の特徴をご紹介します。
熊の主食や食性について知ることで、熊の被害から身を守りましょう。
この記事は熊の主食に関する情報をすべて網羅していますので、すべて読むと10分程度かかります。
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熊は「植物食メインの雑食」
熊はオオカミやライオンと同じ「食肉目」に属します。しかし、日本に生息している2種の熊「ツキノワグマ」と「ヒグマ」はともに植物食に近い雑食です。飼育下においてもニンジンやサツマイモ、生の植物などを与えられていることが多いようです。
しかし、食肉目である熊の消化機能は肉食向けであり、植物の繊維(セルロース)の消化は苦手です。
たとえば、草食動物である牛は胃を4つ持ち、第1胃に常在する微生物の作用によってセルロースを分解しています。
また、同じく草食動物のウサギは、盲腸内の微生物の力を借りてセルロースを分解、生成された便(盲腸便)を食べることで栄養を得ています。
しかし、熊にはこうした微生物との共生槽の役割を果たす消化器官がありません。そのため、植物からの栄養吸収率は低くなります。熊は食物の体内通過速度を速くすることで、吸収率の悪さを摂取量でカバーする戦略を取っています。
熊が非効率的な植物食をメインとしている理由は明確ではありませんが、以下の2点が考えられます。
・狩りより採集の方が効率的であるため
熊は食肉目ですが、狩りに向いた体つきをしていません。そのため狩りよりも採集の方が労力を割かずに大量のエネルギーを摂取できると考えられています。
・人為的要因のため
北海道のヒグマについて食性の変化を調査したところ、明治時代以降の開発に伴い、肉食傾向から草食(植物食)傾向に転じたことが分かりました。原因としては、鮭漁の活発化やエゾオオカミの駆逐が挙げられます。
狩りが得意でないヒグマは、エゾオオカミの狩った獲物を奪ったり、残された死体を食べたりすることが多かったのではないかと考えられています。エゾオオカミが絶滅すると、ヒグマは大型動物の肉を摂取する機会を失い、植物食にシフトしたようです。
熊の歯の構造は切歯12本、犬歯4本、前臼歯16本、後臼歯10本の計42本(欠如している個体あり)であり、他の食肉目と同本数です。しかし、熊は他の食肉目より臼歯が発達しており、植物や木の実を歯ですりつぶして食べるのに適しています。
【季節別】熊の主食
熊は植物食をメインにしているため、季節やエリアによって主食となる食物が異なります。一般的な主食を季節ごとにご紹介します。
春
春の主食は去年落果したドングリや木の若芽、若葉、草類(シシウド、フキ、テンナンショウ、ササノコなどの多肉質のもの)です。
また、冬の間に凍死・餓死したシカの死体も貴重な栄養源になります。
夏
生き物の生育が活発な季節である夏は、熊にとっても多種多様な食物を摂取できる季節です。その時々で盛りを迎える花や果実を食べるほか、昆虫やカニ、ザリガニといった水生生物を捕食することもあります。
秋
秋に実りを迎えるドングリやクリ、ブナの実などは、熊にとって非常に重要な栄養源です。
この時期に十分な栄養を摂らなければ、冬眠を乗り切ることはできません。そのため、熊は木の実を求めて長距離を移動し、時に人里に下りてくることもあります。
熊の好物
熊は雑食性であり、効率良く手に入るものであればなんでも食べます。しかし、熊にも食物の好き嫌いがあり、個体によって好物が異なります。
中でも好まれるのは味の濃いものや甘いもの、柔らかいものです。
のぼりべつクマ牧場では、ヒグマが最も好む食べ物としてバニラアイスクリームを挙げています。甘くてクリーミーなアイスクリームは、熊にとっても大変おいしい食べ物のようです。
また、野生のヒグマは農作物を好んで食べます。食用に改良されたカボチャやニンジン、リンゴは味が良く、一度に大量に手に入れられる点も熊にとって魅力のようです。
特に飼料用のトウモロコシである「デントコーン」はヒグマの大好物です。北海道の環境生活部自然環境局によると、令和5年度にはヒグマによるデントコーンの食害による被害額が1億6,500万円に上り、非常に深刻な問題となっています。
はちみつが好物だといわれる所以
熊ははちみつが好物だと言われることが多いです。「クマのプーさん」のイメージが強いからと考えられますが、実際にはちみつを好む熊も少なくありません。
飼育下でツキノワグマの食性を調査するために行った実験では、多種類のえさの中から必ずはちみつを最初に選んだという結果が出ています。
先述の通り、熊は味が甘くて濃く、柔らかいものを好む傾向にあります。はちみつはまさに熊の好みにぴったりの食物です。
野生下の熊も、ハチの巣や養蜂箱を狙うことが多いです。しかし、目当てはハチの幼虫(蜂の子)であるといわれています。
ハチの幼虫は植物食メインの熊にとって貴重なたんぱく源です。野生の熊は幼虫を食べる「ついで」にはちみつを食べているのかもしれません。
実際、はちみつをえさにして野生のツキノワグマを呼び寄せる実験では、10%程度の熊しか近づかなかったという報告もあることから、「全ての熊がはちみつ好き」とはいいきれないようです。
熊の主食となる食物
熊の主食となる食物について詳しく知ることで、熊の食性や行動への理解を深められます。このページでは、熊の主食となるドングリ、昆虫、果実類、植物、シカの死体について詳しくご紹介します。
ドングリ
ドングリは特に冬眠前の熊にとって必要不可欠となる栄養源です。ドングリのカロリーは100gで302㎉(ミズナラの場合)と高く、炭水化物を多く含んでいます。さらに、同じエリアに密集して生え、一粒が大きいことから、効率よくエネルギーを摂取できる点も重要な栄養源といわれる所以です。
熊におけるドングリの摂取量は正確に分かっていませんが、熊の成獣が秋の間に食べなくてはならないドングリの量は1日1,200粒といわれています。
しかし、ドングリは毎年安定して手に入れられないという問題点があります。ドングリは年ごとに豊作と凶作を繰り返し、さらに同エリアで結実量が同調する傾向にあるためです。
このようにドングリの結実量が変わるのは、ネズミなどの小動物に対応するためです。毎年同量のドングリがなると、その量に合わせて小動物の数が増え、実を食べ尽くされてしまいます。そのため、あえて結実量を減らして小動物を減らし、次の年に結実量を増やして発芽できる実を多く残せるようにしているのです。
ドングリの凶作時、熊は他の場所にドングリを探しに行く、もしくは別の食物を多く摂取する傾向が見られます。
昆虫
夏になると増える昆虫は熊にとって重要なたんぱく源になります。特に熊が良く狙うのは、ハチやアリなどの社会性昆虫です。同じ場所で大量に手に入るため、効率よくエネルギーを摂取できるためです。特に幼虫はたんぱく質や脂肪を多く含み、柔らかいため熊の大好物です。
また、春にはセミの幼虫を食べることもあります。北海道知床半島の人工林では、セミの幼虫を求める熊が地面を掘り返すことで、樹木の成長が低下しているという調査結果もあります。
果実類
植物の消化が苦手な熊にとって、柔らかい果実は良い栄養源になります。ドングリとは異なり毎年の結実変動が少ない点も果実類の大きなメリットです。ただし、採取できる期間が1ヶ月程度に限られるため、ドングリのように大量に摂取することは困難です。
特に熊が好む果実類の例は以下の通りです。
ヤマザクラ、ウワミズザクラ、クマイチゴ、モミジイチゴ、コケモモ、タンコウバイ、サルナシ、オオカメノキ、ヤマボウシ、アマドコロ、アブラチャン、ミズキ |
熊は果実を食べ、糞として排出することで種子散布の役割を果たしています。
また、熊は木に登って果実をとりますが、落ちた果実は地上にいる小動物の重要な栄養源になります。熊は果実を食べることで、森林やそこに住む動物を育てているのです。
植物
先述の通り、熊は植物食をメインとしています。動物とは異なり、採取場所に行けば確実に手に入れられる植物は、労力のかからない重要な栄養源となります。
熊が食べる植物としては、以下のようなものが挙げられます。
木の若芽 | コブシ、ブナ、ミズナラ、ササ、イワカガミなど |
葉や茎など | フキ、イタドリ、フキノトウ、テンナンショウ、ブナ、スゲ、アザミ、ウド、タケノコ、エゾニュウ(シシウドの一種)、ヨモギなど |
球根 | ミズバショウ、ユリ類、など |
花 | コブシ、ザゼンソウ、ニリンソウなど |
なお、先述の通り熊は繊維の消化が苦手なため、たんぱく質や繊維質が少ない植物を選んで食べます。また、多くの植種では時間経過により繊維が増え、たんぱく質が減少するため、熊が消化できる新芽や若葉の期間は限られています。
シカの死体
熊はあまりシカを狩りませんが、死体は良く食べます。特に早春に見られる凍死したシカの死体は冬眠後の熊にとって重要な栄養源です。
北海道ではエゾシカの食害が深刻化したことから有害捕獲が行われ、弱った個体や罠にかかった個体、死骸などをヒグマが食べるケースが増えています。
結果としてシカの味を覚えたヒグマが子ジカを捕獲するケースもあります。
熊の食性の特徴
熊の食性の特徴を理解することで、熊の行動の予測が可能です。これまでの解説を振り返りながら、熊の食性について詳しく見ていきましょう。
季節や環境によって柔軟に食べ物を変える
熊は季節や環境によって柔軟に食べるものを変えられる動物です。食べられる期間が短い若芽や果実類が手に入る時期には、そればかりを集中して食べる傾向にあります。
また、主食となるドングリが凶作の年には、別の食物(春であれば木の芽、秋であれば栗やブナの実)を多く摂取します。
熊は体が大きいうえ、主食となる植物の消化が苦手です。過酷な環境の中で生命を維持するための大量のエネルギーを摂取するためには、状況に応じて食生活を変更する柔軟さが必要なのです。
地域や個体によって食べるものが違う
熊には食べ物の好き嫌いがあります。同じ種類、同じエリアにいる熊でも、鮭を好む熊、果実を喜んで食べる熊など、好みは色々です。食べ物の好みは、母熊から子熊に受け継がれると考えられています。
森林総合研究所の研究によると、ツキノワグマには年齢や性別によって好む食べ物が異なることがわかっています。この研究では、ツキノワグマの食性と年齢・性別の関係を調査した結果、若い熊は葉やアリを多く食べ、5歳以上のオス熊になるとシカを食べる個体が増えることが明らかになりました。これは、体が大きい成獣のオス熊が食物をめぐる競争で有利だからだと考えられています。また、ドングリなどの堅果類が凶作の年には、若い熊やメス熊が手に入りやすい果実類を多く採取する一方で、オスの成獣は昆虫類を多く食べる傾向があることが報告されています。さらに、堅果類が豊作の年であっても、オスの成獣は一定量の昆虫を食べ続けていることも確認されています。
このように、熊の主食は年齢や性別、状況によって大きく変わります。理由ははっきり分かっていませんが、熊の食性は食べ物の好みや採食のしやすさに影響を受けていると考えられます。
食べ物への執着が強い
熊は食べ物への執着が非常に強い動物です。特に一度「自分の物」とした食べ物を他の個体や動物に奪われることを激しく嫌い、攻撃します。
熊は罠にとらえられたシカなどの動物を襲うことがありますが、その際に罠の見回りに来た人が攻撃されてしまう危険性があります。
罠をかけた際にはこまめに見回りをして、獲物を早めに片付けなくてはなりません。もし、熊が先に来ていた場合は無理に獲物をとらず、その場を離れることが推奨されています。
また、熊は一度おいしいと思った食べ物にも執着します。人の食べ物の味を覚えた熊が、その食べ物を求めて何度も人里に下りてくることも少なくありません。
さらに悪い例として、熊が捕食目的で熊が人を襲うという事件も過去に何度か発生しています。人はシカやイノシシと比べて足が遅く力が弱いため捕えやすい点も、熊にとっては魅力的なのかもしれません。そうして人肉に執着した熊が人里を襲う事件も数多く残っています。
代表的な例が「三毛別樋熊事件」です。1915年、北海道で起こった本事件は、1頭のヒグマによって7名が殺害(うち1名は妊娠中で胎児も死亡)、3名が重傷を負い、「日本史上最悪の熊害」とも呼ばれています。
被害を与えたヒグマは女性の衣服に強く執着しており、食害した女性の遺体を埋めて隠していたとのことで、熊の執着の強さがうかがい知れます。
冬眠時には一切食べない
食物に執着し、大量の食物を食べる熊ですが、冬眠時には一切食べません。熊は冬眠期間中に出産、育児をしますが、その間も母熊は絶食絶飲の状態です。ただし、飼育下では冬眠時に水を飲んだ事例もあります。
熊が冬眠をするのは、主食となる植物が不足する時期を生き延びるためです。食物不足の季節に対応する方法は以下の3つです。
・食物の多い場所に移動する(渡り)
・食物を保存する(貯食)
・代謝を下げて寝て過ごす(冬眠)
熊は体が大きいため、渡りや貯食は効率が良くありません。そのため、冬眠をしているのではないかと考えられています。
冬眠中、熊のエネルギー源になるのは体に蓄えた脂肪です。冬眠前の10~11月には熊は飽食期に入り、大量の食べ物を摂取します。
植生による熊の行動変化
熊は季節によって生息地を変える傾向にあります。
先述の通り、熊が食べられる若芽や若葉が手に入る時期は限定的です。
しかし、標高が高くなれば雪解けが遅く、植物の芽吹きが遅いため、標高が低い場所ではすでに食べられなくなっている植物が手に入る可能性があります。そのため、熊は芽吹きを追って標高の高い場所に生息地を移すのです。
そして、9月初旬には熊は秋の主食となるドングリ(ミズナラやブナ)を求めて標高の低い場所へと戻ります。ミズナラが不作の場合は、さらに標高の低い場所に実るクリやコナラを食べるために山を下ることもあるようです。
このように、熊は主食の「旬」に合わせて山を上り下りします。体が大きくて長距離を移動できる熊だからこその特徴であるといえるでしょう。
子殺しと共食い
熊は「子殺し」や「共食い」をすることがあります。基本的に食べるために同族を襲うことはなく、食べ物の取り合いの果てに死んだ相手や、餓死・斃死した熊を食べるケースが多いようです。
特に5~6月の繁殖期には共食いが多発します。大きなオス熊が若く弱いオス熊や、母熊が連れている子熊を食べてしまうこともあります。
オス熊が子熊を食べるのは交尾のためです。メス熊は授乳中に発情しないため、オス熊は子熊を殺して発情を促し、交尾をします。メスの発情を促すための子殺しは、ライオンやハヌマンラングールといった他の動物でも見られます。
ただし、オス熊が子熊を食べるのは栄養補給の意味もあるといわれています。
熊棚
「熊棚」は熊が樹上の実や若芽を食べた後の痕跡です。
熊は木に登り、枝を折って食べ物を摂ります。折った枝は自分のお尻の下に敷き、最終的に巨大な鳥の巣のようなものができます。これが「熊棚」です。
熊棚は森林の生物多様化において重要な役割を果たしています。
熊棚により枝や葉のない空間(熊棚ギャップ)ができると、地上に日光が差し込みます。その結果、地上低い所に生育する植物が育ち、昆虫が集まったり、実った果実を食べる動物が来たりするなど、生態系が豊かになるというわけです。
熊は種子の運び屋であり、死体を食べて片付ける掃除役であり、森林の健やかな成長に貢献する森林管理官の役割をも担っているのです。
土饅頭
「土饅頭」は熊棚と同じく、熊の食べた痕跡を示すものです。熊はシカなどの大型獣を食べた後、食べ残しを土や落ち葉で覆います。これが「土饅頭」です。
土饅頭は食べ物を隠して保存するためとも、貴重な食べ物を自分のものとして誇示するものであるともいわれています。
先述の通り、熊は食べ物に強い執着を示します。土饅頭に気づかず近づいてしまうと、熊に襲われる危険性があるため注意が必要です。
なお、人気漫画の「ゴールデンカムイ」では、人が土饅頭にされるシーンがあります。このように熊が人を土饅頭にする事件は、2023年にも北海道で起こっています。
クマの食性変化による摂取カロリーの変化とエネルギー収支
熊の食べる量は季節によって大きく変化します。ツキノワグマを例に挙げると、冬眠明けの春はたんぱく質が豊富な若芽や若葉を食べ、1日に2,000㎉程度カロリーを摂取しているようです。
しかし、春から夏にかけての摂取カロリーは1日当たり500㎉と大きく下がり、エネルギー収支は大幅なマイナスになります。夏の主食である果実や昆虫は、若芽やドングリとは異なり森の中に散らばっています。そのため、効率よく採食できず、摂取カロリーが減ってしまうのかもしれません。
秋になると熊は飽食期に入り、大量のドングリを食べます。摂取カロリーは1日当たり5,000~7,000㎉に及ぶこともあり、エネルギー収支の面でも大幅なプラスです。大量に摂取したカロリーはほとんどが脂肪となり、冬眠中の熊の生命を支える栄養源になります。
熊が1年に摂取するカロリーのうち、80%が秋のドングリであるという説もあるほどで、熊にとってドングリは厳しい冬眠を乗り切るための重要な主食であることが分かります。
熊の主食が足りなくなる要因
熊は体が大きく、冬眠をする動物であるため、特に秋ごろには大量の食べ物が必要です。
さまざまな要因により食べ物が足りなくなると、熊は食べ物を求めて人里におり、人家や畑に深刻な被害をもたらすことがあります。また、熊の冬眠がいつからなのかも食べ物がどれくらいあるのかに大きく左右されるため、熊という生物を理解するうえで熊の秋の主食である堅果類の不作、豊作を知ることは重要です。
熊の主食が足りなくなる主な要因である、「端境期の食糧不足」と「ドングリの凶作」について解説します。
端境期の食糧不足
熊の食べ物の端境期は、8月中旬から9月頃に訪れます。
この時期、草木類は成長しきって硬くなり、熊が好む繊維質の少ない植物は手に入りません。気温が下がることから、昆虫たちの活動も鈍化するため盛夏ほどは採食できません。
しかし、秋の主食であるドングリの結実まで間があることから、一時的に食料が少なくなる「端境期」となります。
端境期は農作物の収穫時期と重なるため、人里に下りて農作物を荒らすケースが多くなります。
ドングリの凶作
先述の通り、ドングリは冬眠のエネルギー源となる重要な主食です。しかし、豊凶を繰り返すため、常に安定して採食できません。凶作の年には熊は食べ物を求めて行動範囲を広げ、人里に下りて農作物や生ごみ、ペットフードなどを食い荒らすことがあります。
堅果類凶作による熊異常出没の予測
熊の主食となる堅果類(ミズナラ、ブナ、クリなど)が凶作の時には、冬眠前に食物が不足するため、熊は人里に下りてきます。多くの熊が人里に現れることを「異常出没」、もしくは「大量出没」といいます。
熊の異常出没を予測するためには、堅果類の豊凶を把握することが重要です。
ブナの豊凶は比較的予測が容易です。独立行政法人森林総合研究所では、ブナの実り具合をウェブサイトで公開しています。
一方、熊の重要な主食となるミズナラは、結実数を予測するのが困難です。実がなり始める夏の終わり頃から、地方公共団体やその研究機関が豊凶に関する情報を公開し始めるので、早めに確認しておくことで熊被害への対策ができるでしょう。
熊の主食と食性の特徴のまとめ
熊の主食と食性の特徴について解説しました。熊は肉食だと思われがちですが、実は植物食メインの雑食であり、季節や環境によって主食を柔軟に変更します。時には食べ物を求めて長距離を移動することもあります。
主食の中でもドングリなどの堅果類は、冬眠前の栄養補給に欠かせない重要な主食です。しかし、堅果類の多くは豊凶を繰り返すため、凶作時には食べ物が不足して人里に下り、異常出没となる危険性があります。
熊の被害から身を守るためには、熊の食性や堅果類の豊凶に関する情報を収集することが重要です。
熊について正しく知り、しっかり対策することで、熊との共生が可能になるでしょう。