熊スプレーの効果とは?使い方とNG行動、威力を測る指標を徹底解説
熊スプレーは、熊と接近し、襲われる危険性が生じた際に使用する熊対策グッズです。刺激性の強い成分が噴射されるため、熊をひるませることができるとされています。
一方で、「熊スプレーでは熊を追い払えない」という意見もあります。
果たして、熊スプレーは本当に効果があるのでしょうか。
今回は熊スプレーの効果をテーマに、正しい使い方、避けるべき行動、そして威力を測る指標についてご紹介します。
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熊スプレーにはどのような効果がある?
熊スプレーは、熊が人間に接近し、危害を加える可能性が高まった場面で使用される「最終手段」です。本来、熊は人間を避けて行動しますが、何らかの理由で接触が避けられない状況では、命を守るためにスプレーの使用が求められます。
熊スプレーの主成分はカプサイシンを含む唐辛子由来の刺激物で、熊に噴射することで、強烈な痛みと混乱を与え、行動を抑制させます。スプレーは高圧で噴射され、霧状に拡散するため、ある程度の距離を保ったまま効果的に使用できます。
熊スプレーを浴びたらどうなる?熊と人への影響
熊スプレーは非常に強い刺激性を持ち、熊にも人にも大きな影響を及ぼします。また、誤って他人に噴射した場合、法的責任を問われる可能性もあるため注意が必要です。
ここでは、熊スプレーが熊と人間それぞれに与える影響について詳しくご紹介します。
熊に与える影響
熊スプレーが顔に当たると、熊は激しい刺激と痛みを感じて戸惑い、立ち止まる傾向があります。また、熊はその苦痛の原因がどこにあるのか判断できません。そのため、自己防衛本能から逃避行動を取る熊も多く見られます。
熊スプレーの成分は無害であるため、適切なスプレーを使用すれば熊の健康や命を脅かすことはありません。
人に与える影響
先述のとおり、熊スプレーは後遺症が残るような有害性はありません。しかし、人にとって熊スプレーは非常に刺激が強く、これを浴びると強い苦痛が生じます。
ほんのわずかな成分が触れただけでも、目やのど、皮膚に強い痛みが出ます。また、涙や咳などの症状が数十分から数時間にわたり続くという報告もあります。
路上や山中で目が開けられなくなると、重大な事故につながる可能性があり大変危険です。
熊スプレーを浴びた場合は流水で洗い流し、症状が改善しない場合は医療機関で診察を受けてください。その際、スプレーを持参すると適切な治療に役立ちます。
また、人にスプレーを誤って噴射した場合、過失傷害に問われることもあるため注意が必要です。熊スプレーは護身用に使えるのかの記事で人に使用できるのかどうか詳しく解説しているので見てみてください。
クマの種類による熊スプレーの効果:なぜヒグマ用とツキノワグマ用があるのか?

日本には2種類の熊が生息しています。北海道に分布する「ヒグマ」と、本州以南で生活する「ツキノワグマ」です。
同じ熊ですが、その大きさや凶暴性には明らかな違いがあります。
ヒグマはアメリカに多く生息するグリズリーと同系統で、体重は150〜300 kgにも達する大型動物です。好奇心旺盛で縄張り意識が高い個体も多く、侵入者に対して攻撃行動をとることも少なくありません。
一方、ツキノワグマは体重60〜150 kg程度の中型熊で、性質は比較的穏やかで慎重です。ツキノワグマの危険度を1とするなら、ヒグマは5〜10程度とも評価され、同じ熊でも大きく性質が異なります。
そのため、日本国内では熊の種類に応じてスプレーの成分設計が異なります。
ヒグマ用のスプレーは含有カプサイシノイド濃度が約1.6〜2.0%と高く、油性のものが多いため長時間効果が持続します 。
一方、ツキノワグマ用のスプレーは含有濃度が約1.4〜1.8%とやや低めで、水性の性質が多く、刺激が残りにくい傾向があります 。
ヒグマ用スプレーをツキノワグマに使用すると、刺激が強すぎて過剰な苦痛を与えてしまう可能性があり、逆にツキノワグマ用スプレーではヒグマに対しては効果が不十分で、かえって刺激してしまうこともあります。
熊の種類に応じた適正なスプレーを選ぶことで、効果を過不足なく発揮できます。
銃器と熊スプレーの追い払い効果の検証

熊スプレーは銃器に比べると追い払いの効果が低いように思われがちです。
しかし、実際には熊スプレーの方が熊対策には効果的であることが、複数の研究結果から示されています。
銃器と熊スプレーそれぞれの撃退率を、海外の研究結果からご紹介します。
銃器による撃退率
アラスカで実施された調査によると、クマとの衝突事例269件のうち、銃器で自己防衛に成功した割合は長銃で約76%、拳銃で約84%と報告されています。
しかし、銃を使用した場合と使用しなかった場合で、最終的な被害の程度(無傷・負傷・死亡)に有意な差は見られませんでした。
さらに、銃の詰まりや使用時の転倒により発射できなかった事例もあり、銃による防衛は極めて難易度の高い手段です。
加えて、日本国内では猟銃の所持に厳しい制限があるため、一般の登山者が携行することは現実的ではありません。
熊撃退スプレーによる撃退率
一方で、熊撃退スプレーの有効性を示す研究では、92%のケースで熊の接近や威嚇、突進といった攻撃的行動を抑制することに成功し、使用者の98%が無傷でその場を離脱できたという非常に高い安全性が確認されています。
適切に使用された場合その効果は安定しており、射撃のような高度なスキルも不要です。
携帯性や即応性、非致死性といった点から見ても、熊スプレーは一般人でも扱いやすく、熊と人双方の命を守るための現実的な選択肢といえるでしょう。
「威力が弱い」と誤解されがちですが、実際には強力な抑止力を持つ道具です。
熊スプレーの効果が薄い個体

上述のとおり、熊スプレーは高い撃退効果を持つ対策手段です。
しかし、すべての熊に対して必ずしも同じ効果を発揮するわけではありません。中にはスプレーの効きが弱い個体も存在しており、その特徴を知っておくことが安全対策のうえで重要です。
以下では、熊スプレーが利きづらい熊の特徴についてご紹介します。
子連れの母熊で攻撃して排除する強い意志を持っている場合
札幌市西区の三角山で、冬眠穴を調査していたNPO法人の男性職員2人が熊に襲われました。
熊は2頭の子熊を連れた母熊で、職員の1人が頭部をかまれ負傷しました。もう1人が熊スプレーを噴射しましたが、熊はひるまず、その職員の右ひじと背中にも噛みつきました。さらに2本目のスプレーを噴射したところ、ようやく熊は逃走しました。
母熊は子熊を守ろうとする本能から、人に対して攻撃的になることも少なくありません。特に自力で逃げられない小さな子熊を連れている母熊は、防衛本能が極めて強くなります。
そのような母熊に対しては、熊スプレーの効果が出にくい傾向があることを示す事例といえます。
飢餓状態の個体
アメリカで行われた調査では、1986年から2019年にかけて北米およびロシアで報告された19件のホッキョクグマへのスプレー使用事例を分析しています。
その結果、栄養状態が良くない痩せたホッキョクグマは、人への攻撃的行動を取りやすく、スプレーを噴射しても逃げない個体がいることが分かりました。
また、カナダのバンフ国立公園で発生したグリズリーによる襲撃事件では、ハイカーの夫婦が熊スプレーを使用したにもかかわらず命を落としました。
報道によれば、スプレー缶は空になるまで使用されていたとのことです。
その後、現場近くで射殺された熊は高齢で、解剖の結果、体脂肪が少なく栄養状態が悪かったことが判明しています。
こうした事例から、飢餓状態や極度に栄養不足に陥った個体は、通常よりもスプレーへの反応が鈍くなる傾向がある可能性が示唆されています。
ただし、現時点で明確な因果関係が立証されているわけではないため、あくまで傾向の一つとして捉える必要があるでしょう。
出典:Efficacy of bear spray as a deterrent against polar bears
熊スプレーの効果を最大限に発揮する使い方

熊スプレーの効果は環境や使用法に大きく左右されます。正しく使用することで、その効果を最大限に発揮できます。
特に注意すべき点は以下のとおりです。
携行方法
熊スプレーをリュックサックにしまっていると、熊に襲われた際にとっさに取り出せません。ホルスターに入れて腰やバックパックに固定し、すぐ使用できるように携帯しましょう。
多くの熊スプレーには専用のホルスターが販売されているため、スプレーと併せて購入しておくと安心です。
また、ホルスターからすぐに取り出す練習をしておくことも重要です。
有効な噴射距離とタイミング
熊が接近し、襲われるリスクが高まった際に熊スプレーを使用します。あくまで熊との接触を防ぐための「最終手段」であり、接近を予防する効果はないため、遠くに熊が見える段階で使用しても意味がありません。
使用前には、製品ごとに異なる有効噴射距離を確認しておくことが重要です。適切な使用距離は「熊が射程内に入り、かつ自分に危害を加える前」です。
なお、噴射距離は理想的な環境下での目安であり、風向きや地形の影響を受ける可能性もあります。
遠すぎると成分が届かず効果が薄れ、逆に近すぎると自分にも影響が及ぶ恐れがあります。
そのため、5〜7m程度の距離で、熊がこちらに向かってきた段階が最も効果的なタイミングとされています。
落ち着いてスプレーを構え、熊の顔や鼻先に向けて噴射するようにしましょう。
風向きや場所
熊スプレーを使用する際は、風向きに注意が必要です。熊が風上にいる状態で噴射すると、噴霧が自分に戻ってきてしまう危険があります。
熊が接近してきたら、木や岩を自分と熊の間に置くように位置を調整し、風下に立たないよう注意しましょう。熊から目を離さず、横歩きで慎重に移動することが大切です。
熊との間に障害物を置く行為は、熊から身を守るために重要な対策とされています。
万が一スプレーが効かなかった場合に備えても、木や岩を挟んだ場所から噴射することで熊の突進から身を守ることができます。
噴射する箇所
熊スプレーは、熊の顔、特に目・鼻・口に向けて噴射するのが基本です。粘膜のある箇所に直接吹き付けることで、熊に強い刺激を与えることができます。
熊スプレーは皮膚に付着しても痛みを生じさせますが、熊の体は厚い毛に覆われているため、体に吹き付けても効果はほとんどありません。むしろ、熊を刺激して攻撃行動を強めてしまう可能性があります。
使用する際は必ず熊の顔を狙い、突進してくる進路上に薬剤の壁を作るように噴霧しましょう。
これにより、熊の動きを止め、攻撃を防げる可能性が高まります。
複数人で入山する場合
複数人で入山する場合は、熊が接近した際にどのように熊スプレーを使うかを、事前にしっかり話し合っておくことが重要です。
・熊が接近してきた場合の動き方:風下に立たないよう風上に移動する。パニックになって走って逃げると追われる可能性があるため、互いの様子を確認しながら冷静に移動する。
・誰がスプレーを使用するか:複数人で熊スプレーを携帯している場合は、使用の優先順位や担当者をあらかじめ決めておく。
・スプレー使用時の合図:掛け声や身振りなど、スプレーを使用するタイミングを示す合図を決めておく。
上記のようなポイントを事前に共有しておくことで、いざというときに落ち着いて連携し、効果的に対処することができます。
熊スプレーを効果的に使用できない状況とは
熊スプレーは、どのような環境でも常に最大限の効果を発揮できるわけではありません。
状況によっては、効果が十分に得られないこともあります。
特に以下のような状況では、スプレーの効果が十分に発揮されにくくなります。
低温下
熊スプレーは、低温においては噴射圧が低下してしまい、噴射距離や拡散範囲が低下してしまいます。
特に水性のスプレーは凝固や霧化不良を起こしやすいため、北海道など低温の地域に行く際には、油性の熊スプレーを選びましょう。
アメリカで行われた研究では、グリズリー用の油性スプレーを−23 ℃の環境で使用しても、射程距離は4 mを超え、熊を追い払うことができたと報告されています
ただし、油性スプレーでも氷点下の環境下では噴射の霧化が細かくならず、拡散範囲が狭くなる可能性があります。
強風
強風時には熊スプレーの効果が大きく低下する可能性があります。
多くの熊スプレーは霧状に噴射されるため、風の影響を受けやすく、薬剤が拡散してしまうことで、熊に届く量が減少し、十分な効果を発揮できなくなることがあるためです。
ブリガムヤング大学などが実施した実験では、無風状態でのスプレーの最大射程は約9mに達したのに対し、風速2mの逆風では射程が2m前後にまで落ち込むという結果が示されています。
風速がわずかでも上がると、スプレーの到達距離は顕著に短くなるため、風向きと風速には十分注意する必要があります。
そのため、風の強い環境で熊スプレーを使用する場合は、噴射が霧状ではなく直線的に飛ぶ「液状噴射型」のスプレーを選ぶと、効果を高めやすくなります。
出典:An Investigation of Factors Influencing BearSpray Performance
すぐに使えない状況
先ほど触れたとおり、熊スプレーはすぐに使用できるよう携行することが重要です。
熊が至近距離に現れた場合、襲われるまでに数秒程度の猶予しかありません。素早くスプレーを噴射することで、熊に対する防御効果が高まります。
スプレーはすぐ取り出せる場所に携行し、熊に気づいたら速やかに安全ピンを外して噴射できるようにしておきましょう。
あらかじめ安全ピンの外し方を練習しておくことで、迅速かつ確実に対応できるようになります。
熊スプレーのNGな使い方と注意点
熊スプレーは使用法を誤ると効果が出ないばかりか、かえって自身に危険が及んでしまう恐れがあります。
熊スプレーの不適切な使い方や、使用する際の注意点をご紹介します。
【NG①】熊の接近を防止するために使用する
先ほど触れたとおり、熊スプレーは熊に襲われた際に使用するものであり、熊の姿が見えていない時や遠くにいる時に忌避剤として使用するものではありません。
熊スプレーはあくまで「最終手段」と理解し、まずは熊の接近を防ぐための工夫を行うことが重要です。
熊鈴やラジオ、ベアホーンなどを使用して人の存在を熊に知らせ、熊が人を避けるように仕向けましょう。
また、食べ物や洗剤など強いにおいを発するものは熊を誘引する可能性があります。密封可能なコンテナに収納し携帯することで、熊の接近リスクを軽減できます。
熊の接近を防止するための対策グッズに関しては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
関連記事:熊対策グッズのおすすめと正しい選び方・使い方を徹底解説
【NG②】不適切な距離での使用
先述のとおり、熊スプレーは製品ごとに有効距離が定められています。遠すぎるとスプレーの成分が熊に届かず、十分な効果が得られません。
一方、近すぎるのも危険です。噴射が間に合わずに攻撃を受けたり、自分自身が成分を浴びてしまったりするリスクがあります。
風向きや風量を考慮したうえで、適切な位置から噴射することが大切です。
【NG③】熊に自分で接近してスプレーを噴射する

熊を見かけたからといって、自分から近づいてスプレーを噴射してはいけません。
まず、熊は必ずしも人間を襲うわけではありません。本来は臆病な動物であり、人を見て逃げるケースも多く見られます。
熊スプレーは有害性が低いとはいえ、必要のない状況で浴びせることは熊にとっても大きなストレスとなり、動物愛護の観点からも望ましくありません。また、近づくことで熊を刺激し、攻撃を誘発する可能性も高まります。
近年、北海道ではヒグマに接近してスプレーを使用する事例が報告されていますが、こうした行動は人と熊の双方に危険をもたらします。
熊を見かけた際は、刺激を避け、落ち着いて距離を取りながらその場を離れることが、安全確保と野生動物の保護の両面で重要です。
【NG④】安全装置を外して携行する
熊スプレーは熊の攻撃時に迅速に噴射することが重要ですが、だからといって安全ピンを外したまま携行するのは危険です。ちょっとした衝撃で噴射されてしまい、自身や周囲の人に被害を及ぼす恐れがあるためです。
実際に、新幹線の中で荷物を網棚に上げた際、スプレーが誤噴射してしまった事件があります。持ち主は傷害罪になり書類送検されています。
熊スプレーは必ず安全ピンをつけて携行しましょう。
また、公共交通機関に乗る際にはピンがはずれないよう固定したうえで袋にしまい、誤噴射のリスクを軽減することが重要です。
熊スプレーの効果の強さを測る指標
熊スプレーの効果は、さまざまな指標で評価できます。特に重要な要素は以下の4点です。
・スコヴィル値
・噴射時間
・噴射距離
・性質
それぞれの指標とその見方を以下にご紹介します。
スコヴィル値

スコヴィル値とは、唐辛子の辛さを数値化したもので、「SHU(Scoville Heat Units)」とも呼ばれます。
対象となる辛味成分(熊スプレーの場合はカプサイシン)を砂糖水で何倍に薄めたら辛味を感じなくなるかを表す指標で、タバスコで約2,000SHU、ハラペーニョで5,000〜8,000SHU程度です。
熊スプレーのスコヴィル値は200万SHUを超えるものもあり、非常に強い刺激を熊に与えます。
この数値が高いほど刺激が強いといえますが、値を見る際には以下の点に注意が必要です。
・軍事用や防犯用のスプレーでは、食品用と異なる検査方法を採用しており、スコヴィル値は食品用検査結果の10分の1の値で表されることがあります。たとえば、食品用のスコヴィル値で200万SHUとされる製品は、防犯用では20万SHUと表記されることがありますが、実際の辛味成分の濃度は同等です。
・スコヴィル値は高ければよいというものではありません。刺激が強すぎると、必要以上の苦痛を熊に与えてしまう可能性があります。また、使用者自身が誤噴射によって強い苦痛を受けるリスクも高まります。
刺激の強さばかりに目を向けるのではなく、訪問する地域や想定される熊の種類、自身の使用経験などに合わせて、適切なスプレーを選ぶことが重要です。
噴射時間
スプレーの「噴射時間」とは、成分を連続して噴射できる持続時間のことを指します。
一般的には数秒から10秒程度で、噴射時間が長いほど効果的とされています。
特に、スプレーの操作に不慣れな場合や、風の影響で成分が熊に届きにくい状況では、噴射時間が長いほど命中率が上がり、熊を撃退できる可能性も高まります。
ただし、噴射時間が長ければ良いというわけではありません。
噴射時間は内容量に比例するため、時間が長くなるほどスプレー缶のサイズや重量も大きくなる傾向があります。
女性や高齢者の方など、力や携帯性に不安がある場合には、持ちやすく扱いやすいコンパクトタイプのスプレーの方が実用的であるケースもあります。
噴射距離
スプレーの「噴射距離」とは、成分が前方に届く距離を指します。
一般的には5〜10m程度とされており、噴射距離が長いほど、熊が接近する前に対処できるため、安全性が高まります。
ただし、注意すべき点があります。製品に記載されている噴射距離は、多くの場合、無風の室内環境で測定された理想的な数値です。
実際の屋外では風の影響を受けやすく、成分が拡散したり流されたりすることで、実効距離が短くなる可能性があります。
そのため、熊スプレーを使用する際は、風向きや周囲の状況にも十分に注意する必要があります。
性質
先述のとおり、熊スプレーには「水性」と「油性」の2種類があります。この違いは、辛味成分(主にカプサイシン)を溶かす媒体によって決まります。
たとえば、鉱物油、植物油などで溶かしている場合は油性、アルコールで希釈している場合は水性に分類されます。
欧米では熊スプレーは基本的に油性タイプが主流であり、水性タイプは「ペッパースプレー(護身用スプレー)」として分類されることもあります。
油性スプレーは皮膚に付着した成分が残留しやすく、熊に対する効果が持続しやすいのが特徴です。寒冷地でも安定して使用できる点もメリットとして挙げられます。
一方、水性スプレーは水で洗い流しやすく、刺激の持続性はやや弱めです。
ただし、日本ではツキノワグマ対策として水性スプレーが用いられることもあり、イノシシや野犬、サルなど、他の野生動物への対応にも適しているため、汎用性の高さが評価されています。
熊スプレーの選び方や代表的な製品については以下の記事で詳しくご紹介しています。
関連記事:熊スプレー徹底比較。選び方や使用上の注意点を解説
熊スプレーの使用期限と経年劣化
熊スプレーには一般的に使用期限が設けられており、期限切れの缶は性能の低下が懸念されます。
期限を過ぎると、内部の加圧ガスが徐々に漏れ、噴射圧が弱まって噴射距離が短くなる可能性があります。
また、主成分であるカプサイシンも時間や温度の影響を受けて化学的に分解しやすく、刺激成分の濃度が低下する恐れがあるため注意が必要です。
さらに、高温環境や極端な寒冷地など、保存条件が悪い場合は、ガス漏れやシール劣化、カプサイシンの成分劣化も進行しやすくなる危険性があります。
非常時の安全を確保するためには、熊スプレーは常温の安定した場所で保管しましょう。
そして、使用期限が切れた製品はためらわず交換し、常に万全の状態で備えることが大切です。
「使っていないのに処分するのはもったいない」と感じるかもしれませんが、スプレーを使わずに済んだということは、それだけ熊と遭遇するリスクが少なかったという証拠でもあります。
熊スプレーは、非常時の安全を確保するための備えです。
使用期限が切れた製品は適切な方法で処分し、必要に応じて新しいものを準備しておきましょう。
熊スプレーの処分方法は以下で詳しくご紹介しています。
関連記事:熊スプレー徹底比較。選び方や使用上の注意点を解説;処分方法
熊スプレーで熊を撃退した事例
最後に、熊スプレーの有効性を裏付ける、国内で実際に熊を撃退した事例をご紹介します。
万が一の遭遇時に本当に効果があるのか不安に思う方も多いかもしれませんが、正しく使用すれば熊スプレーは非常に高い効果を発揮します。ここでは、そうした実例を通じて熊スプレーの現実的な効果を見ていきましょう。
【北海道】ジョギング中に熊に遭遇、スプレーで撃退
2024年6月、北海道美唄市の展望台付近で、夜間にジョギングをしていた男性が熊に遭遇する事案が発生しました。
男性は以前からその場所で熊の目撃経験があり、熊撃退スプレーを携帯していたとされています。
当日、展望台に向かう途中でうなり声のような音と、周囲の異様な気配を感じて振り返ったところ、草むらから体長約1.5mの熊が出現。熊との距離はおよそ10mでした。
熊はうなり声を上げながら走り出し、約3mの距離まで接近。男性は撃退スプレーを噴射し、熊は沢へと逃げていったといいます。
その後、熊が離れたことを確認しながら下山したとのことです。
【島根県】測量中の作業員が熊をスプレーで追い払う
2023年10月、島根県浜田市三隅町の山林で、測量作業中の作業員2人が熊と遭遇する事案がありました。
現場は御部ダム上流の林道沿いで、午前中の作業中に背後からうなり声のような音が聞こえたため、振り返ったところ、体長約1.3mの熊が1mほどの距離まで接近していたとのことです。
作業員はすぐに携帯していた熊撃退スプレーを使用し、スプレーを浴びた熊はその場から逃げ去ったと報告されています。
極めて近距離での遭遇にもかかわらず、スプレーが有効に機能した事例といえます。
まとめ
熊スプレーは、強い刺激と苦痛を熊に与えることで、攻撃行動を抑制する効果があります。万が一の遭遇時における最後の防御手段として、多くの実例でもその有効性が確認されています。
また、軽量で携帯しやすく、操作も比較的簡単なため、女性や高齢者でも扱いやすいのが特長です。
熊の生息域に住んでいる場合や、登山・キャンプなどで熊の出没が予想される地域を訪れる場合には、心強い熊対策アイテムと言えるでしょう。
ただし、熊スプレーは万能ではありません。
たとえば、強風下では噴射成分が流されてしまい、十分に熊に届かない場合があります。また、個体によってはスプレーの刺激に鈍感で、効果が弱いとも報告されています。
さらに、スプレーが手元にあっても、咄嗟に取り出せなければ意味がないため、携行方法や反応の準備も重要です。
熊スプレーの性能には、噴射距離・噴射時間・スコヴィル値・油性/水性の違いなど複数の指標があります。自分の行動エリアや対象となる熊の種類に応じて、適切な製品を選ぶことが不可欠です。
また、正しい使用方法を理解し、緊急時に使えるようシミュレーションしておくことも、効果を最大限に引き出すためには重要です。
そして何より大切なのは、そもそも熊と遭遇しないための予防策です。
熊鈴や携帯ラジオで人の存在を知らせたり、食べ物の匂いを周囲に出さないようにしたりすることで、熊の接近を未然に防ぐことができます。
熊スプレーはあくまで最終手段です。過信せず、「使わなくて済む」行動を選ぶことこそ、最も安全で効果的な熊対策といえるでしょう。
自分の命と、野生動物の命をともに守る意識を持って、安全な行動を心がけましょう。



